解答1.1 戦争が科学技術を発展させてきた歴史はジェット機やロケット、原子爆弾に限りません。高分子でも天然ゴムの代替としてのSBR、パラシュート基布としてのナイロンは有名です。そして、PEやPPのように誘電損失の少ない高分子材料は、第二次世界大戦におけるレーダーのような電子機器の開発に必要なものでした。しかし、実用に耐えるPPを製造する技術は、第二次世界大戦中には完成しませんでした。
J. Paul Hogan and Robert Banks at Phillips Petroleum (USA)は、いわゆるクロム触媒を開発して、HDPE製造の基礎を作りました。現在でも中空成形用途では、メタロセン系PE よりも主に使われています。フィリップスは、クロム触媒をPP重合にも適用しました。
Md. Tanvir Hossain, Md. Abdus Shahid, Nadim Mahmud, Ahasan Habib, Md. Masud Rana, Shadman Ahmed Khan, Md. Delwar Hossain, Discover Nano (2024) 19:2
しかし、直ぐにZ-N触媒が登場したために、主流にはなりませんでした。実用されるPPに必要だった要因は、結晶性です。フィリップスの技術では結晶性はあるけれども結晶が少ないPPになってしまいました。別の言い方をすると、アイソタクチックな立体規則性を制御することができませんでした。
現在使われているPPはisotactic PPですので、結晶化度が50%程度であるため、結晶の融解温度の160℃近くまで形状が保てる一方、ガラス転移温度0度以上では靭性が発現することにより、日常生活で使う温度範囲で優れた性質持っているのです。これが、Z-N触媒で製造したPPが使われ続けている理由です。
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